とある音屋の日常 「C3PROJECTスタッフBlog」

サウンドエンジニア、サウンドデザイナーとしてレコーディングからPAまで音の仕事ならなんでもおまかせC3PROJECTの日常。

映画館・ダビングステージの「Xカーブ」特性について 

これまでの仕事を振り返るとありがたいことに、大小含めて劇場でみてもらう作品の音に、もう10本ほど関わらせてもらっていた。

私はこの業界に入ったのが20年近く前になるが、スタジオの同僚Aさんが大変そういったテクニカルなことが好きで詳しい人だったため、先輩よりも同僚Aさんに多くを教えてもらった。Aさんは当時自分が勤めていたスタジオで唯一技術面に詳しく、システムの改修に積極的に取り組んでいた技術の切り込み隊長みたいな方で、Protoolsのことも、デジタル同期の基礎も、サラウンドのことも映画音響のことも、ほとんどAさん経由で教えてもらい、追って自分で勉強していったので、今でもAさんには感謝をしている。

Aさんから当時よく話題として教えてもらったのが「ダビングステージと音」の関係で、大した資料が国内に無い中で、出入りするSONAやDolbyの方からの貴重な話を私に聞かせてくれたのは大変貴重な情報源だった。

そんな中で、日本の音響関係者がわかっているようでわかっていないのが「映画館の音響特性=Xカーブ」の話だと思う。ほとんどの映画音響の書籍を見ても「Xカーブ」の語句に触れはするし、お決まりの周波数特性図が載ってはいるものの、Xカーブとはなんぞ?だからつまりどうすりゃええのん???という肝心の解説は特にないのである。おそらく著者も理解していないので触れていないのである。

そこで「Xカーブ(X−cueve)」というのが何なのか。そしてどう扱うべきものなのかという信頼できるソースを探すともうこれは国内には見つけられないので、仕方なく英語文献を当たると、あっけなく解決するあたり、いかに日本がガラパゴス化しているかの証左だと思う。

Xカーブを現代の映画音響においてきちんと理解して製作作業をするためには、その歴史も知っておくべきだと思うので簡単に解説すると、サイレント映画だった映画に音がつき始めたのが1920年代。映画館はまだ音響のことを考えられておらず、再生システムもひどい音質で音量もまちまち、長い残響時間でハッキリ聞こえないのが当然の時代を経て、映画館とダビングステージの音を改善するため、再生音場特性を平準化を目指し、SMPTE ST202や、ISO2969に規定される「X−curve」が生まれた。
SMPTE ST202や、ISO2969に準拠した映画館が増えるにつれ、映画音響は今日につながる大変な改善と進化を遂げていくことになる。

ここで大事なのが、X−curveというのはあくまでも映画館やダビングステージのルームアコースティック(空間音響特性)を含めた音環境を平準化するための指標であって、映画のマスター音源をX−curveでイコライジングしろだとかフィルターしろというものではないのだが、音の仕事をしている人間のなかには相当数勘違いしている人がいる。

X−curveがどういうものかをもう少し詳しく噛み砕いていこう。

▼SMPTE ST202の周波数特性図
SMPTE_ST202.png

まず、X−curveの周波数特性は、約50Hz以下と2KHz以上が緩やかに減衰し、それ以外の区間はフラットなカマボコ型の周波数特性であることが図でもわかると思う。現代の20KHz以上が売りのハイレゾなどと比べると高域側が2KHzで減衰というのは信じがたいほどローファイだが、きちんとした理由がここにはある。

まず、音の物理現象として、スピーカーから発信された音は、スピーカーから直接届く「直接音(DirectSound)」と、床・壁・天井で反射する「間接音(RefrectSound)」があるが、家庭の部屋では「直接音:間接音」の比率は圧倒的に直接音に寄っていて間接音はあまり影響しない。家で聴く音はスピーカーの音そのものである。

ところが、映画館やダビングステージなどの大空間では、音は拡散し反射して「直接音:間接音」の比率が「間接音」側にシフトしてくる。すると人間の聴覚特性としては高域が強調されていくのである。人間の聴覚心理特性は一番最初に耳に入る直接音に意識がロックされ、次いで耳に入ってくる間接音を補助情報として積算的に知覚しているので、間接音(反射しやすい中高域が中心)が多く耳に入ってくると、印象として全体的に中高域が目立って聞こえてしまう。だからX−curveは2KHzという低い周波数からロールオフして、人間の知覚を補正する特性になっているのである。(だからSMPTE ST202や、ISO2969は「室内で」という重要な条件がある。)

ここまで読めばわかるはずだが、音場特性と人間の聴覚特性を上手に補正してフラットに聞かせるために映画館やダビングステージが用意している環境が「X−curve」であるため、ダビングステージではない一般的なポスプロのMA室で映画の仕込みをやる場合に、無理やりモニターにXカーブを模したロールオフフィルターを入れるようなバカなまねや、マスター音源にエンファシスするようなEQをかますなどのアホなことはしなくて良い。とどのつまり、映画館で観る音も、DVDで観る音も1つのマスター音源で同じように聞こえるようになっているのである。

とは言っても劇場版を普通のMA室だけでダビングするのはお勧めできない。最も重要なのは大空間で聞こえる音をマスターとしてベストに仕上げることなので、理想としては通常のMAルームで追い込んでおき、最終的にダビングステージで細部の聴感をさらに詰めていくのがベストなワークフローなのは言うまでもない。劇場でも家庭でも同じような印象を持てるようクロスマッチしながら作業を進めることだと思う。

蛇足だが、映画館・ダビングステージのサイズや形状、残響特性によってX−curve補正は変化する。
一般的にその容積が小さくなれば直接音が多くなり間接音が少なくなるのでロールオフ量が少なくなり、逆に容積が大きくなれば直接音が減り間接音が増えるのでロールオフ量が増える傾向が有る。
また残響時間が長いほど聴感上の高域増加が起きやすくなるのでロールオフ量は大きくなる。

より詳しいことは各文献を各自当たってみてほしいが、参考のきっかけとなればと思います。

▼参考サイト
https://www.smpte.org/sites/default/files/files/X-Curve%20Is%20Not%20An%20EQ%20Curve.pdf

https://www.audiosciencereview.com/forum/index.php?threads/validity-of-x-curve-for-cinema-sound.204/

https://www.psneurope.com/studio/what-s-the-x-curve

http://colombo36.web.fc2.com/contents/cinemasoundsystemmanual.pdf

https://patents.google.com/patent/JPH08340600A/ja




category: 基礎技術・知識

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