予算と職人

2012/05/06
日々の雑感 4
「不景気」


この言葉に世の中がまみれてもうかなりの時間がたつ。

1980年生まれの僕はバブル絶頂期のこの業界知らない。バブルの名残りというか余韻というか、その勢いの惰性を1980年代に子供として感じたのが自分の知るバブルという経験の全てなわけだが、メディア業界にはこのバブル絶頂期を現場で肌身に感じて育ってきた世代がゴロゴロいる。大体40代以上の先輩方がその世代に当たるのだけど、話を聞くとホントに「アカサカ、ザギンでシースー」の世界。当時は現場のケータリングも叙々苑だのまい泉だのが普通にでるし、タクシーチケットもバンバン出てたとか。(十数年前、僕がPAのバイトを始めた頃の業界は今思えば景気もまだマシで、待遇ももう少し良かったように思う。現場に出れば一番下っ端だった当時の僕のようなスタッフにも主催者や、タレント側からギャラとは別に金一封が貰えたりしたんだもん。)

不景気を理由に報酬を値切られることと、低予算のツケをダビングやMAという最終工程の現場で払わされることしか知らないバブル崩壊後に業界に足を突っ込んだ僕にはなんとも羨ましい限り。

とにかく当時メディア業界にはお金が唸るほど集まっていた。

実際にはまぁ・・・、唸っていたのは広告代理店とか局とかの上層部であって、現場は今も昔も変わらず予算不足だったわけだが、それにしても現場における予算不足の「程度」が昔はまだ許容範囲だった。

昔の予算不足の程度と言いうのは、「どのセクションにも助手を数名付けられるけど、各セクションいつもより約1人分少ないです」とかそんな感じ。つまり、いつもは3人体制だけど今日は2人でやってねとかってレベル。

ところが今や、「本来必要な全セクションを用意できないので、このセクションとこのセクションは無しで行きます」というレベル。例えば、「照明と音声を入れる予算がないので撮影だけで乗り切ります。その撮影ですがカメラマン雇えないのでディレクターがカメラ回します。カメラも民生機で行きます」ってレベル。

もうなんというか、哀しいかな、テレビのコンテンツの半分くらいはこんな感じになってる。

ドラマや映画、アニメ業界はまだ何とかホントにギリギリの瀬戸際で現場の予算が確保されてるのだけど、それでも随所に予算削減の風を感じるのが今のかなしい現実。

実際先日MAを担当した番組も音効さんが居なかった。しかも撮影クルーに音声がいないので撮りあがった音はどれもヒドイもの。映像の編集もスケジュールがホントにタイトで予算不足の結果が招いた究極の結果の見本のような現場だった。それでもプロというのは最終的にはなんとか出来上がりの体裁を整えるもので、各セクションの血と汗と涙の結果、出来上がりはちゃんとした体を成しているのである。


しかし、予算不足の現場に限って不条理なことを言われることが多い。

その番組の時も、前日までに台本も渡されていないし、仕込み時間も十分になかったのに、ナレーション取りを朝イチで始めたいと言われ、ミキサーとしては番組の内容もわからないまま仕込みナシでナレ録りに挑むなど絶対に避けたいので「少しでいいので時間ください」と言ったら「それはないなー。どうして出来ないの?」と素で返された。

いや無理だから。やれなくはないけど、絶対ロクな事にならないから。絶対途中でトラブって余計時間かかるから。

そこはもう心を鬼にして「前日までにVTR編集上がってなかったので仕込めてないです。仕込み無しでナレ録り始めたら、思いがけない音が出たりして絶対ナレーターさんの腰を折る結果になったりしますし15分でいいから時間下さい」って言いましたですよ。渋々納得してくれましたが「前の話数の時は出来たのにオッカシイナ~・・・ブツブツ」と言っている。 現場のわかってないプロデューサーやタレントから見たらまるで僕が悪者みたいにディレクターは言うけど、それは責任転嫁でしょ。そりゃ前の話数の時は前日仕込みができてたからですよ。VTR本編集の時間、MA用ワーク起こしの時間考えて仮編集上げてきてからそういうことは言って下さいと。

しかも音効さんが居ないのですよ!!

本来であれば音効さんがある程度用意してくれるベースの音があるので、撮影素材の現場音はそんなに使う比率を多くしなくて済むのだけど、今回は予算の都合で音効さんが居ないので100%撮影素材の音に頼っている。しかも撮影時に音声スタッフ無しで撮ってきてるので音はサイアク。これで仕込み無しでナレーション録りに挑んだ日にはどう考えても収録中断の連発である。

これだけ悪条件が揃っていて、どこに朝イチいきなりナレーション録り始められる要素があるのか小一時間問いつめたい。



結局のところ、予算不足ってレベルじゃない現場でもそれなりの品質でモノが出来上がるのは、予算とは関係なく自らの信念に従って「質の悪いものは絶対に出さない」という現場技術職の職人魂に頼るところが大きい。少なくとも私はそうやって仕事をしています。

技術職の人間は自分の中で許される最低基準を持っているし、自分の名前がクレジットされていればなおのこと質の悪いものを出す訳にはいかないと思うもの。出来の悪いものを誰かに見せるなんて死ぬほど恥だから。

素人さんにはその差が分からないようなことでも、少なくとも同じ技術職に見られた時に恥ずかしくない質に仕上げようと努力するし、予算とか関係なく、とにかくいいものを作ろうとする人が多い。

そういう職人魂に甘えて無茶な低予算でなんでもやらせようとするのが今蔓延してるように思う。





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Comments 4

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小牧

音の善し悪しは視聴者だけじゃなく、ディレクターやプロデューサーも分かってないから音に予算かけないんですよ。

書いてることは正論だと思いますが、私は全く逆の考え方です!
私には単価が10,000円のMAも来れば3,000円のMAも来ます。これを同じクオリティーにしてあげようとは思わない。他のエンジニアが聴いたら『もうちょっとやりおうあるんじゃない?』と思うレベルでも私はギャラに見合ったクオリティーに仕上げるようにしないと、定価で払ってくれるお客さんに申し訳ないですもん。
だから私はプライドではなくお金目的で仕事しています!
しかし1つ言えるのは『この仕事好きなんだな』ってことだけですね。

2012/05/06 (Sun) 09:20

現役音声さん

凄くお察しします。
後処理で予算の差を出すのは簡単ですが、現場で予算の差を出すのはこれまた至難の業ですよ。音声費出ないからと言うことでVEで出向したロケが昔あったのですが、現場ではしっかり音声の仕事があったんです。もしもの時に備えてあったマイクとミキサーを使う羽目になったのですが、ディレクターに音声費出てないから適当でイイよとか言われるんです。
ディレクターは予算で明らかにクオリティに差を出そうとしていたわけですが技術の人間としては難しい。わざわざガンマイクの向きをオフにするのか?突っ込める距離をわざわざ離すのか?結局普通に録りました。現場で手を抜くのは至難の業です。

MAでもそうですが安い仕事ほど文句や要望、改訂が多くて百害あって一理ありません
親しい間柄でない限り定価を割る仕事は受けないようになりました。

2012/05/12 (Sat) 00:45

小牧

>>現役音声さん

現場で差を出すって簡単じゃないですか?
ガンマイクとワイヤレスマイクで臨みたいところを
予算が少ないならワイヤレスをなしにするとか...
ガンマイクをやめてカメラマイクオンリーにしちゃうとか...

私は今週末に撮影2日、機材費込みでDay6万の超低予算録音の依頼が来ましたが、
金額的にはこれが限界とのことだったので
自分でワイヤレスも所有してるのに、
「この予算じゃワイヤレスは手配できないからガンマイクオンリーでやるか
制作サイドで用意してくれないか?そうじゃないとこの仕事は請けられない」
と言ったら即答でワイヤレス手配を快諾してくれました。

やはりそういった交渉だったりで予算を引き出すか、
愚痴りながら引き受けて当たり前のように普段通り仕事をしてしまって
感謝もされずに終わってしまうか。
そこが大切だと思うんですが・・・

2012/05/15 (Tue) 10:51

現役音声さん

う~む

そうですね、予算で機材を削って行くのは普通ですが、主さんの言われる通りクレジットに自分の名前が出る仕事でカメラマイクではできませんね~。もちろん予算でゴネますが通った試しがありません。恵まれていないのでしょうかね。カメラマイクでやってやりたいのは山々ですが人質、、いえ名質されていると余計ですね。クレジットなし、ローカルなお仕事だと予算に見合った機材で抜きどころはありますが。知り合いで低予算で仕方なしだと手は抜きません。知り合いでも知り合いじゃなくても制作が嫌な奴だと正直に手を抜きます(笑)駄目でしょうか?

2012/06/20 (Wed) 22:32
日々の雑感